スルガ銀行騒動をめぐって~かぼちゃの馬車に乗せられた結末~

エッセイ

「無茶な融資のために審査書類を改ざんした」
などとして、最近スルガ銀行関連の報道がよく目につきます。

近年ではすっかり定着した感のある、いわゆるサブリース方式での不動産経営によるトラブルは、この件だけに限った話ではありません。

実際、いきなり携帯電話に見知らぬ番号から着信があり、

「投資用のマンションを建てませんか or 買いませんか」

と大なり小なりの営業の電話を受けたことがある方も多いのではないかと思います。

もちろん、こうした業者が全部悪徳だと断定するわけではありません。

しかし、そもそもサブリースで不動産を経営することについては、よく考えたうえで飛び込む必要があることは間違いありません。

金融庁が「厳正かつ適切に対応していく」としたこのスルガ銀行問題を切り口として、サブリースや不動産投資について今一度考えてみたいと思います。

発端はスマートデイズ(株)による「かぼちゃの馬車」の破綻

まず簡潔に言うならば、この騒動は

・銀行はお金を貸したい。
・金利で稼がないといけない。

ということから生まれたものです。
銀行も営利企業なのですから、利益を求めるのは当然のことです。

ただ、それがスルガ銀行の場合は露骨で強烈だったため、こうした不祥事が明るみに出てきてしまったのです。

そのスルガ銀行が積極的に融資を行ってきたのが、スマートデイズ㈱の展開した女性専用シェアハウスブランド「かぼちゃの馬車」でした。

簡単に説明するならば、

スマートデイズ「かぼちゃの馬車」

・土地オーナーにかぼちゃの馬車を建築させる
・かぼちゃの馬車を一括借り上げにて転貸(サブリース
・オーナーには月々に一定の家賃収入を約束する(家賃保証

スルガ銀行

・かぼちゃの馬車の建築費用を融資する
・融資の審査資料などの改ざんを行い、返済能力を超える過剰融資を行う

という相互関係で成り立っていたビジネスモデルです。

しかし、成り立っていたのは一時のことだったわけです。

この関係が短期間で崩壊し、多くのオーナーが大打撃を受けたことから、今回の件が明るみに出たのでした。

果たされなかった家賃保証の約束

まず、スマートデイズからオーナーには、「毎月この金額は保証します!」という契約がなされます。

そして、その額は確かに支払われるのです。

ただ、

・諸経費はこの保証された家賃の中から支払わなければいけない
・もちろん融資を受けた分の返済も続く

ということになっているところがポイント。

たとえば、毎月120万円の家賃が保証されているけれども、そのうち10万円の経費が差し引かれて手取りが110万円。
そしてスルガ銀行への返済が毎月100万円です。

差し引きは10万円。

「それでも10万円が毎月きっちり入ってくるのなら、投資としてはまだおいしいじゃないか…!」

そう考えるお気持ちもわかりますが、それもこれも毎月きっちりと保証された家賃が支払われ続ければ、の話です。

現実には、1年程度でこの家賃が支払われなくなったわけです。

家賃が入ってこなくとも、返済は当然ながら続けなければなりません。

しかも、スマートデイズの場合、保証された家賃よりもそもそも物件の家賃収入が実質的にはかなり低かった

=満額の家賃収入があったとしても返済額に全然届かない

ということも明らかになってきています。

“焼畑農業的ビジネスモデル”

つまり、家賃を補償すると謳いながら、その本質はもともとサブリースでは利益が出るビジネスモデルではなかった。

では、どこから利益を得るか?

かぼちゃの馬車をどんどん建てて販売する。

というわけですね。

とはいえ、現代日本では賃貸マンションやシェアハウスなどの借り手が少なくなる一方ですし、当然先行きは暗くなるばかりです。

そうしてスマートデイズは破綻、かぼちゃの馬車のオーナーには毎月数十万~数百万円の返済がのしかかり続けるのでした。

もちろんスルガ銀行も融資基準を引き上げたり、毎月の返済額を減額したり、という措置を取っていたということですが、それでも数百億の融資が焦げ付いてしまうのではないか、と言われています。

こうした、”行き当たりばったり”的に利益を上げ、その後継続的にケアを行う中でのビジネスについては頓着しないスタイルは、いわば”焼畑農業的ビジネスモデル”と言えるのではないでしょうか。

今後の不動産投資業界、どうなるか

マンション管理士は、あくまで分譲マンションのコンサル業を行うための資格です。
したがって、こうしたサブリース事業などには積極的に関与することができません(ファイナンシャル・プランナーや宅建業者のテリトリーです。)

とはいえ、マンションやシェアハウスなどが投資用でガンガン建てられ続けていることについては、危機感を抱かずにはいられません。

分譲マンションのように、所有者同士でお金を積み立てて、一生懸命考えて修繕・管理を進めてきてこそ、マンションの寿命は伸ばされます。
投資目的のオーナーであれば、すべて管理会社に丸投げで、自分の建物を目にすることすらほぼないという方も珍しくありません。

※もちろん投資用のワンルーム分譲マンションなどでも、基本的に
区分所有者が不動産を経営している=(オーナーたち全員で)適切な管理を行わないといけない
という意識が欠如している感は否めません。

そもそも管理会社だって営利企業ですから、利益を目的とすることは当然ですし、最適な管理や修繕の継続を望むことは簡単ではないでしょう。

このスルガ銀行騒動を受けて、今後の不動産投資業界はどうなるでしょうか。

まず、今回はスルガ銀行とかぼちゃの馬車に焦点が当てられているわけですが、大なり小なり、こうしたサブリースにまつわる事例はすでにいくつも発生しています。

業界全体にこうしたキナ臭い流れがあると、金融庁などがスルガ銀行だけでなく幅広い調査に動くことも考えられますし、金融機関がどんどんと融資の窓を引き締めていくことにもなるでしょう。


昨年末~今年にかけて、仮想通貨という概念が一般層にも広く認知されることとなりましたが、うま味のありそうな話に飛びついて火傷した方も多いと聞きます。

これはあくまで私見ですが、

「広く一般層に儲け話が持ち掛けられ始めたのはなぜか?」
「うまい話は独占して自分の利益にしたくないのだろうか?」

という気持ちは常に持っておかないといけないのではないでしょうか。

仲介業者やマンション管理士としての目線から言わせていただくとすれば、

「不動産投資は楽して簡単に儲かる」

という認識が広まっていることについては警鐘を鳴らしたい気持ちでいっぱいです。

今一度、不動産や投資についての正しい見識を、業者・専門家だけでなく、不動産に関わる全ての方々が身に着けるよう意識すべきだと私は考えます。

一度建築してしまえば、長く深い付き合いになる不動産です。
焼畑農業では、その先行きはとても暗くさみしいと思いませんか?

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