平成29年4月1日、改正宅地建物取引業法(宅建業法)が施行されました。
宅建士の試験については、恐らく今年度の4月1日現在で施行されている法律が試験範囲となっていますから、こちらの改正点についてしっかり押さえておいた方が良いでしょう。
※昨年度のマンション管理士試験においては、昨年度改正された標準管理規約についての問題が複数出題されたため、やはり直近の法改正については必ずチェックしておいた方が良いと私は考えています。
改正宅建業法は、平成28年に成立した
により公布されたものなのですが、その内容は平成29年4月1日に施行される部分と、平成30年4月1日に施行される部分の2つに大別されます。
今回の記事では、平成29年4月1日に複数施行される部分の中でも、特に感じたことのある部分について書いていこうと思います。
それでは、具体的な内容について見ていきましょう。
注目?宅建業法第34条の2、条文新設
宅建業法第34条の2において、下記の条文が追加されました。
媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、当該媒介契約の目的物である宅地又は建物の売買又は交換の
申込みがあつたときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければならない。
では、とあるケースを仮定して、この条文がどのような目的であるか、ということを解説したいと思います。
たとえば、
「私のマンションを売って下さい!大阪市北区、梅田すぐ近くの一等地にあるマンションなのですぐに売れるはずですよ!」
という依頼を受けて、とある宅建業者(以下:A)が仲介としてそのマンションを売り出す(売買の媒介契約を締結)ことにしたとします。
Aが実際に広告を掲載してみると、確かに反響がどんどんやってくる。
しかし、それは一般客からの反響ではなく、すべて自分と同様の仲介業者(BやC)からの反響でした。
※「私が買います!」と言ってくるお客様ではなく、「あの梅田のマンションを買いたいと言っているお客様がいる」ということですね。
そのような反響を受けたものの、Aは
「せっかくなんですけど、そのマンションはすでに商談中になってまして…先着順ですから、ごめんなさい」
という返答をしました。
そのような返答を繰り返すこと数回。
売主様からはもちろん、
「あの梅田のマンション、どうなった?すぐに売れると思ってたんだけど…」
という連絡が来ますが、
「反響があるにはあるのですが、契約締結には至っていないですね…」
とAは返答するのでした。
以上のケースですが、どうしてこのようなことになってしまうのでしょうか?
「買いたいという人がいるのであれば、そのまま売ればいいじゃないか」
と思われる方も多いことでしょう。
しかし、これはいわゆる”囲い込み”という一種の手法で、”両手の仲介手数料”を狙いたいがためのものなのです。
至極簡単に表現するならば、
「業者は自分しか関わらない取引がしたい(自分で買主を見つけたい)」
ということです。
これは、ひとつの取引につきもらえる報酬額が、宅建業法につき制限されていることに起因します。
つまり、
売主→A←買主
にしたい。
売主→A←B←買主
では、AだけでなくBも介在するため、Aの仲介手数料の取り分が減ってしまうのです。
取引に関わる業者がAだけなら、買主&売主の両方から、最大なら仲介手数料が2倍(両手)もらえるのに、Bが絡むならAは売主からもらえる(片手)仲介手数料だけになってしまうということですね。
※もちろん、配分などは取決めすることができます。基本的にはこういうケースが多いということです。
つまるところ、今回の宅建業法第34条の改正は、
「購入希望者からの連絡が仲介業者に入ったなら、隠さずちゃんと売主に報告して、手数料第一をやめて売主の意向に従いなさい!」
という目的があるわけなのです。
でも実際のところ、効果は?
これは、一読すると画期的な法改正に思えます。
しかし、この宅建業法34条の2関係に関する改正について国土交通省が発表している「解釈・運用の考え方」 においては、今回のテーマになっている「媒介契約の依頼者に対する報告」については、このように考えているということです。
購入申込書等の売買又は交換の意思が明確に示された文書による申込み
があったときは、依頼者に対して遅滞なく、その旨を報告することとする。依頼者の希望条件を満たさない申込みの場合等であっても、その都度報告する必要がある。
国土交通省発表「解釈・運用の考え方より引用(第34条の2関係より)」
…そうなんです。”文書による申込み”なんですね。
TELでの問い合わせについてはノーマークなんです。
もちろん、”どんなものでも問い合わせが入るたびに逐一売主に報告しろ”という風に義務化されたなら、それはそれで宅建業者にとってはかなり酷なことになりますし、せめてそれだったら手数料をもっともらえるようにしてほしい…というのが正直なところです。
とはいえ、文書で「買います!」と申込をするというのは、私の経験上、
“(融資が下りないとか、のっぴきならない事情によるキャンセルの場合を除いて)もうほぼその条件で買います”
というくらいに商談の擦り合わせが進んでから、その内容を証する”買付証明書”というものが交付されます。
そうなってくると当然売主に連絡しますし、売主経由で”売渡証明書”というものを交付する、というのが自然な流れなんです(地域性などあると思いますが)
つまり、”文書”という制限があるということは、私の感覚から言えば、あまり以前と変わりがない(門前払い的に断っていたら買付証明までこぎつけられない)ように思えるのです。
※ちなみに、上記の「解釈・運用の考え方」は、”標準媒介契約約款”という、国土交通省が宅建業法を元に示すモデル的な媒介契約の形です。
宅建業法の条文上は、文書と明言されているわけではなく
「媒介契約の目的物である宅地又は建物の売買又は交換の申込みがあつたときは」
なんですね。
…どうでしょう、今年の宅建試験に、こういう意地悪な問題が出る可能性もゼロではないのでは?笑
「(宅建業法上)媒介契約を締結した物件につき、書面での申込みがあった場合に限り、必ず売主に報告しなくてはならない」― 〇か×か?
のような出題があった場合、このブログを読まれてから受験される奇特な方は、正解を導き出せるのではないでしょうか…!笑
しかし、私のように法学をきっちり修めてきたことがない人間にとっては、
「どこからが申込みなんだ?」
というのも気になるところではあります。
「その土地が、”あと50万円安くなるなら買おうかなぁ”と言っているお客様がいます」
というのは申込なのか…?ということを考え始めると、民法もしっかり復習しないと…!笑
ひとまず、そのあたりの解釈の混乱を巻き起こさないための、「解釈・運用の考え方」なんでしょうね。
囲い込みのせいで結局土地の処分ができなかった…ということになると、それは確実に問題ではありますが、手数料をできるだけたくさん欲しい気持ちもよくわかります。
商売なんですから。
こう考えると、なかなか奥深いテーマですね。
今回はマンション管理士とは少し違う分野である、宅建業法についてでしたが、随時このように不動産にまつわる話を幅広く書いて行けたらいいなと思います。
コメント