Amazonの電子書籍定額読み放題サービス、kindle unlimited。
そのヘビーユーザーである私は、”気になるものがあればとりあえずダウンロードして、とにかく斜め読みする”ということについて、意識的に努力しています。
そして、特に意識的に取り入れようとしているのが、実用書や学術書などです。
これらの本は、購入するとなると、単価の高い単行本が多いということもありますが、何より無作為に買い続けると今のシンプルな一人暮らしの我が家では保管することがすぐに難しくなってしまいます。
しかし、kindleを利用するようになってからは気軽にいろいろな本に手を出すことができるようになりました。
そこで、当サイトでは、kindle unlimitedを利用して読むことのできる書籍の中で、マンション管理や不動産取引にもあてはまりそうな面白い書籍があれば、たまには紹介記事も書いていくことにしました。
自分にとっての記録でもありながら、読者の皆様にとっても何か良い出会いになれば幸いだなと思います。
古典的”ループもの”小説 『愚者の渡しの守り:タイムループで学ぶ戦術学入門(原題:The Defence of Duffer’s Drift)』アーネスト・スウィントン
さて、今回取り上げるのは、古典的な”ループもの”であり、戦術書でもある小説『愚者の渡しの守り(原題:The Defence of Duffer’s Drift)』です。
本国イギリスでは読み継がれている名作だそうですが、今回初めて邦訳され、kindleで読むことができるようになったということで、何はともあれチャレンジしてみました。
※”ループもの”とは、wikipediaによれば
、
ループものは、タイムトラベルを題材としたSFのサブジャンルで、物語の中で登場人物が同じ期間を何度も繰り返すような設定を持つ作品のこと。いわゆる「時間もの」の一種。
昔からある物語の類型のひとつだが、日本のオタク文化やジュブナイルものでは頻出する設定であり、半永久的に反復される時間から何らかの方法で脱出することが物語の目標となるものが多い。(wikipedia:ループものより)
ということです。一言でいうと、
“主人公が何度も同じシチュエーションを体験する様を描く物語”
になるのではないか、と思います。
引用にもあるように、1ジャンルとして様々な作品が存在するようですが、私はほぼこのジャンルについては無知でした(というより、SF小説には明るくないんです)。
しかし、食わず嫌いもよくないと思い、せっかくの機会なので…と読み進めてみると、紙ページにして130ページ程度というお手軽さもあり、苦もなく読むことができました。
あらすじ
19世紀末、南アフリカで勃発したボーア戦争において、英国陸軍の青年将校:バックサイト・フォーソート中尉は、要となるシリアスヴォーゲル川の渡河点「愚者の渡し」を守ることを命じられた。
しかし、独立した部隊を指揮する経験を持たない中尉の采配では、「愚者の渡し」を守るどころか、部隊の壊滅を招くことになる。
自らも捕虜となった中尉が失敗を自覚し、教訓を噛みしめていたところ、気が付けば自分が「愚者の渡し」を守ることを命じられる瞬間に立ち戻っていた。
中尉は先の失敗から得られた教訓をもとに、再度「愚者の渡し」の守りにチャレンジする…。
中尉が戦闘を通じて得た教訓から、現代社会に生きる自らも学びとる数々
あらすじにあるように、この物語は一貫して
・主人公が失敗する→教訓を得る→なぜか時間が巻き戻る→次こそはやってやる!
という、試行錯誤の繰り返しで進行します。
そうして中尉が物語中で得た教訓は、数にして22。
それらは基本的には戦術書としての教訓であり(しかも19世紀のものだということで、前時代的な兵器を前提としているものもあります)、
「なるほどなぁ…」
というものから、
「わざわざこうして教わるまでもないのでは…?」
と思ってしまうようなものもあれば、戦法や兵器などの用語になじみがないために今一つわかりづらいものもありました。
しかし、戦争や戦闘をテーマにして説かれている教訓とはいえ、現代社会を生きる我々にとっても、ハッとさせられるような教訓もありました。
たとえば(簡略化していますが)、
・教訓6
疲れている兵士が苦労して労働しているとき、怠け者には休息を許さず、労働の尊さを教えなさい。
→管理組合などの運営において、理事など主要メンバーが苦心している中、その他のメンバーはまじめに運営に取り組んでいない、というようなシーンを想定してみてください。
「理事はこれだけ苦労しているんだから、お前たちもまじめにやれ!」という説教をすることは簡単かもしれませんが、その尊さを説くというところまではなかなか難しいのではないでしょうか。
物語中では、敵軍が敵国民をうまくコントロールしている様が描かれているのですが、その描写たるや
“ボーア人の隊長は彼のことを「おじさん」と親しそうに呼んでいた”
というほどの親しさです。
このような関係性であると、”彼らは仕事をまるで楽しんでいるかのように”、また”口答えはまったく聞かれなかった”という様子で、敵国民たちはてきぱきと主人公の部隊が降伏したあとの処理をこなしていたそうです。
事実として、管理組合などの組織において、このような形はある種夢物語のようなものなのかもしれませんが、この形を目指すことを初めからあきらめてしまってはいけないんだ、と身につまされる思いがしませんか。
・教訓11
小規模かつ独立した陣地で敵の攻撃を迎え撃つ場合、全方向が正面だと思いなさい。
→自分が思う正面からのみ敵が攻めてくると思ったら大間違い。
これって、意外といろんなことに当てはまると思いませんか?
たとえば管理組合での総会や会社での会議など、いろいろな議論の場などで、
「この人は自分と同じような意見だし、味方みたいなものだ。
あの人たちさえうまく説得できればなんとかなるんじゃないか」
となんとなく思い込んでいたものの、いざ蓋を開けてみれば、味方だと思っていた人は途中から態度を硬化させ始め、多方面からの矢面に立たされる…
というような経験がある方は、そう珍しくはないはずです。
これは、周り全部を敵だと思え、というような解釈ではなく、
・思いがけない方向から責められても動揺しないよう、できる限り自分の意見や立場を明確にし、勝手に味方がいると思い込まないこと
という風にとらえるのが良いのだろう、と私は思います。
特に
“小規模かつ独立した陣地で”
というのは、管理士として総会に参加する場合などに強くあてはまりそうだな、と感じました。
穿った見方なのかもしれませんが、本書は単なる軍事的な戦術書ではなく、実際に現代社会を生きていく上でも活かされるような戦術書でもあると思います。
そして驚くべきは、1900年代の初頭にタイムループという斬新な手法を使って、このような物語を書き上げているということです。
電子書籍で気軽に手を出せる時代になったからこそ、出会うことができたということもまた面白いですね。
今後も、また面白い本との出会いがあれば、こうしてここに書き残していきたいと思います。
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